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社会福祉法人やまがた市民福祉会|特別養護老人ホームとかみ共生苑|グループホームとかみ楽生苑|とかみふれあいセンター

TEL. 023-646-5050

〒990-2342 山形市富神前6番地

設計者より                    1998 水戸部 裕行

計画の理念とプロセス

 この計画では初期の段階で施設及び運営構想プロジェクトチームが編成された。しかもそのチームは経営・運営側だけでなく、介護・看護の経験者が同人数、それに設計者も加わり約8名で構成された。この体制は建設に至るまで維持され、完成までの5年間で数十回の議論を重ねた。設計者が構想の段階から参画し、運営側と介護者双方の立場や考え方に接し設計者の考えを充分説明できる機会が与えられたという点で、最も理想的な形でプロジェクトに関わることができた。

 最初の1年間は事業理念として掲げられた @入居者・利用者の人間としての尊厳の保持 Aノーマライゼーションの実現 B地域社会に支持される施設づくり、という老人ホームの本来あるべき姿についての学習と議論が行われた。その間北欧や国内の先進施設等の視察を経て理念の共有と深化がはかられた。この経験はその後の計画を円滑に進める上で大きな役割を果たすことになった。

 理念から導き出された具体的な施設計画の方向は、徹底した個室化と、介護・生活単位の小規模化、クラスター方式採用の3点であった。住宅に近い施設づくりを考えた当然の帰結である。しかし、それは利用者には理想であるが、果たして実際に経営が可能かという点がその後の議論の中心となった。モデルプランに基づき、長い間シュミレーションが繰り返された。結論は現在の制度の中でも何とか経営可能という予測であった。当然、それは介護保険導入後の利用者主権という、大きな変革の流れを前提とした大胆な挑戦である。経営的に厳しい見通しを承知の上で出発したが、現実には予定した介護職員では足りず、国基準の約1.7倍の職員で運営されている。


全体の構成と集落としてのデザイン

 敷地は山形市の市街地から離れた小さいが古い集落に寄り沿うようにして位置する。高低差3m程度の山裾の傾斜した、やや高台の見晴らしの良い場所にある。高齢者の利用区域はフラットに造成された。将来はケアハウスやリハビリ施設、診療所等が併設される計画があり、総合的な福祉医療施設として構想されている。

 施設は大きく居住部と共用部に分離、私的空間から半私的、半公的、公的空間に至るまで、図式的と見えるほど段階的な構成とした。共用部を中心として両側に2つの居住ブロックを配し、領域を明確に区分している。特に居住部のそれぞれのクラスターは独立性を高め、より住宅的なスケールと雰囲気を実現し、施設全体の「一部」としてではなく、集落の中の「ひとつの家」として意識される計画とした。共用部はディサービスB,E型、介護支援センター、ヘルパーステーション,地域交流スペース,それに管理諸室と職員の厚生部門等により構成されている。図書室、理美容室、売店、それに映画館として想定されたAV室などを配置し、「住宅地」としての居住部に対し、共用部は「まちとしての役割」が担わされている。内外部からの積極的な利用と地域との交流を想定して計画された。スケールや仕上の面においても、居住部との明白な違いが意識されるように設計されている。

 外部の形態も大きな施設ではなく小さな家の集合体と見えるように、できる限り細かに分節され、屋根が重なり合う家並みの連続する集落として、周囲の風景の中にとけ込むデザインとした。中央に立つ塔は地域のシンボルになると同時に、施設の各所から見えることで位置確認ができるように計画された。また施設の周囲には四季折々の変化が身近に感じられる草花や樹木が植えられ、その間をうねるように遊歩道が巡らされている。

生活単位の小規模化とクラスター方式

 居住ブロックは10〜14床の8つの生活単位に分割、4つの介護単位、2つの管理単位から成り立つ。8つの生活単位空間のそれぞれが共用空間と明確に分離されると同時に、通過交通を避けて独立した領域となるようにクラスター方式を採用した。それぞれのクラスター内には、専用の小さな食堂と個浴室が付属し介護単位で共用の庭を持つ。しかも、できるだけ住宅的なスケールで計画され、木造住宅のような仕上と雰囲気を持つデザインとした。特殊浴室のみが管理単位で共用されている。

 一方、個室化については夫婦での利用を想定した2人室を除いて、多床室もそれぞれ占有の窓を持つ。ベッド間は障子で仕切られ、かつ対面しないベッド配置とし、個室的に設えた。個室は72%であるが、個室化率は100%といって良い。自分らしさの演出、家族や友人の訪問・滞在時間の回数と長さ、小グループの生活の気楽さと落ち着き、介護者が身近にいる事への安心感など、入居者の立場から見て個室化と生活単位の小規模化、それにクラスター方式による利点は充分に生かされている。しかも介護単位の細分化は、対象とする入居者が限定されるため、従来の施設と比べ職員の心理的負担は軽いとの指摘もある。ここまでは当初考えた通りであったが、個室化による介護効率の悪さは予想を上回る結果になった。そのために、職員配置は先述したように増員された。しかし、職員の心理的負担の軽さは、介護の密度や質に大きな影響があり、現在の措置制度の中ではその利点は顕在化しにくいが、介護保険導入後は必ずこの施設の利点が反映されるものと信ずる。